第111回医師国家試験の合格率88.7%に感じる4つの疑問。

第111回医師国家試験が2017年2月11日、12日、13日にありました。

そして3月17日に合格発表がありました。
新卒の合格率は91.8%、既卒の合格率は54.3%、総計で88.7%の合格率でした。

医師でない人がこの合格率を見れば、いくつか疑問が湧くのではないでしょうか。

  • 医師国家試験は簡単なのか?
  • 医師国家試験の合格率は適切なのか?
  • 医師国家試験に意味があるのか?
  • 医師国家試験に落ちたらどうなるのか?

今回は、医師国家試験の合格率に関する4つの疑問について書きます。

医師国家試験は簡単なのか?

受験者の90%近くが合格する試験です。
さぞかし、医師国家試験は簡単なのだろうと思われるかもしれません。

その通りです。
医師国家試験は、とても簡単です。
落ちる方が難しい試験です。

「実は国家試験は難しいんだ!」という反論を書こうとも思ったのですが、どう考えても医師国家試験は難しくありません。

国家試験の勉強に、pubmedで論文を調べる必要はありません。
ガイドラインを読む必要もありません。

答えの出ない問題に悩まされることもありません。

在胎22週、350gで出生した赤ちゃんで、広範囲の脳室内出血が見つかっていて、人工呼吸しながら昇圧剤を使用し、なんとか命をつないでいますが、きわめて不安定な状況で、両親は医療の中止を求めているケースにおいて、医者がとるべき対応は?というような残酷でかつ答えられないような問題は出ません。

選択肢のどれかが正解なんです。
どれも選んでも正解じゃないこともある医療の現場からすれば、どれかが正解だなんてとてもラッキーなケースです。

勉強方法も単純です。
クエスチョンバンクという過去問による問題集をひたすら解きつつ、分からないところは医学生向けの参考書で調べるだけです。
医師国家試験に最新の医学知識は出題されません。

必死に勉強すれば、3か月で合格ラインに達するでしょう。
医学部に合格する難しさと比べれば、本当に簡単です。

医師国家試験の合格率は適切なのか?

医師は人間の命を扱う職業です。
知識不足は許されません。

自戒の意味を込めて、あえて「崇高」という言葉を使います。
崇高な医師の適性を9割も合格できてしまうような簡単な試験で決めていいのでしょうか。

もっと合格基準を高くして、合格率を3割くらいにしたほうがいいのではないでしょうか。

たとえば、医学部の数をもっと増やして、医学生の数を3倍に増やしたとします。
そうすれば、医師国家試験の合格率を9割から3割に減らしても、1年間に誕生する医者の数は変わりません。

こうすると、医学部には入りやすくなる反面、医学部に入ってからは国家試験に向けて猛勉強が必要となるでしょう。
おそらくこちらの制度のほうが、優れた医者が育つように思います。

ですが、医者の教育には非常にお金がかかります。
基礎医学としての解剖実習、病院での実技実習など、医学部の定員が3倍になったらとても対応できないと思います。

医者一人育成するのに6000万円かかるという試算もあるくらいです。
医学生を3倍に増やせば、医師の教育のために必要な負担も増えます。

そういう事情から、医学部の入学試験をとても難しくしておいて、医師国家試験を少し緩めて、医師の育成費用のロストを極力小さくしているのでしょう。

医師国家試験に意味があるのか?

必要な情報をインプットし、必要なタイミングでアウトプットする能力というのは、医学部に入る時点ですでに選別されています。
センター試験だとか二次試験だとか面接試験だとか、医学部に入学するときに知識を整理整頓できる力というのはすでに試験されています。

医学部に入学できた時点で、医師になる素質は十分にあると考えます。

いっぽうで、医学部は6年間も学生期間があります。
6年は長いです。

甲子園でナントカ王子と呼ばれたエースも、6年後はエースではない可能性があります。
医学部入学時は医学の道に燃え、やる気があった学生も、6年後はITベンチャーへの道に傾倒し、医学にはあまり興味を持てず、勉強もさほどできていないケースもあります。

6年の歳月で、医師になれる素質を失ってしまう人が数%いるのです。

医師国家試験は、医学部入学時点で持っていた素質が、極端には失われていないことを再確認するための試験だと私は思っています。
そのための試験であれば、合格率は90%であっても十分機能できると思いますので、医師国家試験には意味があります。

医師国家試験に落ちたらどうなるのか?

合格率が90%ということは、逆に言うと10%が不合格になるということです。

医師国家試験に落ちた10%の人は、どうなるのでしょうか。

まず、4月から働く予定だった病院に連絡をします。
4月から働くことはできなくなったと伝えます。

多くの病院では研修医も戦力となっていますので、研修医が一人欠けることで人事の問題で迷惑をかけます。
とにかく早めに連絡しましょう。

そして次は、医学の道をあきらめて就職活動をするか、それとも来年再度医師国家試験を受けるのかを考えます。

とはいっても、医師国家試験に落ちたとはいえ、医学部の卒業試験は無事通過し、医学部を卒業することはできた人たちです。
医師国家試験に1度落ちたくらいで、医学の道をあきらめるということはないでしょう。

すなわち、医師国家試験に落ちた人のほぼ全員が、国家試験浪人になります。
予備校や自宅勉強を1年続け、1年後に再度国家試験にチャレンジします。

ちなみに、卒業試験というのも大学によってはなかなか過酷です。
2割近い学生が卒業試験で落第する大学もあるくらいです。
詳しくはこちらの記事を参考にしてください。

医学部の卒業試験と医師国家試験の合格率の関係。

2017.03.28

まとめ

医師国家試験の高い合格率から感じる4つの疑問について書きました。

医師国家試験の合格率は確かに高いです。

ですが、医者としての資質は入学試験の時点で選別されています。
また、医学生の育成にかかる教育費用の観点から、入学試験を厳しくして、少数精鋭で教育し、医師国家試験を緩くするという方針は理に適っています。

加えて、国家試験を難しくすればいい医者が育つとか、そういう単純な問題ではありません。

医者である以上、一生勉強です。
医学部卒業時点の知識なんて、正直誤差範囲です。

国家試験を終えて、医者になって、数年たつと、医者になってからのほうがはるかに勉強することに気づきます。
どんなに国家試験を難しくしても、医者になったあとの教育でその医者の価値はいかようにも変わってしまいます。

以上の理由から、医師国家試験の合格率は現状で妥当だと私は考えます。

そもそも、9割合格するといっても、1割は落ちるわけで、受験生にとってはかなりの重圧なんですよ。
「医師国家試験は簡単です」と言いつつも、一緒に医学部に入学し、一緒に勉強してきた仲間が1割落ちて、少なくても1年間は医者になれなくなるという恐怖の試験です。

医学生のみんなが医師国家試験を恐れ、必死に勉強しました。
試験が近づくと、体調不良や事故など思わぬアクシデントで試験を受けられないことに怯えました。

専門医試験のように、落ちても特に変わらない日常が待っているわけではありません。
医学生は医者になれなかったら、本当に無意味な6年間を過ごしたことになります。
医師国家試験の合格率は、数字では伝わらない怖さがあるのです。

なお、第111回医師国家試験の良問と悪問について考察してみました。
興味がありましたらどうぞ。